新提案のバリュー平均リバランス法(VARB法)は,ほったらかし投資とバリュー平均リバランスとを組み合わせることで,バリュー平均法と同様のパフォーマンスを手軽に得る方法です.これまでに,具体例による説明と,25年間長期投資のバックテスト結果,詳細説明を示しました.
VARB法では,
低リスク資産:高リスク資産 = 20 : 80
の比率で目標アセットアロケーションを設定します.このうち,高リスク資産は,株式,REIT,外国債券の各資産クラスから,合計で目標アセットアロケーションの80%となるように自由に設定してよい,と前回説明しました.しかし,各自に最適な設定を決めるにあたっては,通常のバイ&ホールドでのインデックス投資とは一部異なる観点から考えることも必要となります.
今回は,VARB法での目標アセットアロケーション設定に関して,いくつかの考え方や例,ならびに利害損得について説明します.
目次
株式だけの構成例
インデックス投資でアセットアロケーションを組む場合に主役となるのは,何といっても株式クラスです.これに対して債券クラスは,株式に比べて値動きが緩やかなので,リスク低減の目的で組み込まれます.
ただ,外国債券は為替変動によるリスクが大きい割に,期待リターンは理論的には国内債券と同じになるようなので,債券クラスは国内だけあれば良いという考え方があります.また,REITインデックスは不動産の値動きを反映しますが,REIT全体の資産規模は株式全体と比べて小さく,不動産関連企業は株式インデックスにも含まれるため,株式クラスを保持すればREITクラスは不要という考え方があります.そうすると,株式クラスと国内債券だけで構成すれば良いわけで,アセットアロケーションはシンプルになります.
この考え方で組むとすれば,あとは80%の比率を国内株式,先進国株式,新興国株式にどう割り振るかだけの問題になります.これも様々な考え方がありますが,以下に例を2つ示します.あくまで例であって,特にこれがお勧めという意味ではありません.
例1 均等に近い株式クラス配分
最も安直な考え方は,国内・先進国・新興国で3等分するというものです.ただ,80%だと3で割り切れないので,新興国だけ少なめに配分したのが,図1の例です.低リスク資産は,国内債券としていますが,これは預貯金でも構いません(以下の例でも同様).
図1 株式クラスを均等に近く配分した例
例2 経済規模を考慮した株式クラス配分
kenzさんのブログ
「MSCI ACWIの日本:先進国:新興国の浮動株調整時価総額比率」
インデックス投資日記@川崎
によると,世界の株式の時価総額比率は,
日本:先進国:新興国 = 7.9%:80.4%:11.7%
だそうです.
また,
世界経済インデックスファンド 交付目論見書
(三井住友トラスト・アセットマネジメント)
によると,GDPの地域別構成比は,
日本:先進国:新興国 = 6.3%:54.8%:38.9%
だそうです.
これらの折衷案で,キリの良い比率に配分した一例が,図2になります.
図2 GDPや時価総額を考慮して株式クラスを配分した例
REITや外国債券を加えた例
前述の,高リスク資産は株式クラスだけで良いという考え方は,一般的なインデックス投資法,すなわちバイ&ホールドで長期的なリターンだけを得るのであれば,妥当かもしれません.一方でVARB法は,相場の変動からもリターンを得ようとするものです.その場合,多少なりとも異なる値動きの資産クラスを加えておけば,値動きの差からもリターンを得られます.
そうだとすれば,VARB法においてはREITと外国債券も含めたアセットアロケーションにした方が,より良いリターンを得られる可能性があると考えられます.インデックス投資における代表的な資産クラスとしては,国内債券も含めて8資産が知られていますので,高リスク資産として7資産,すなわち,
先進国債券,新興国債券,国内株式,先進国株式,新興国株式,国内REIT,先進国REIT
を配分することになります.
例3 均等に近い全資産配分
まず,シンプルにすべてを均等にすることが考えられます.低リスク資産(国内債券)が20%ですので,残りを7資産で等分すると11.4%と半端になります.そこで,7資産の中で最も重要と思われる先進国株式だけを2倍に配分すると,図3のようにシンプルなわかりやすい配分となります.実は,私がVARB法を始めた当時は,図3のアセットアロケーションを採用していました.
図3 全資産にほぼ均等に配分した例
例4 株式主体の全資産配分
8資産に配分するとしても,主体は株式で,REITや外国債券は補助的な扱いとする考え方もあるでしょう.そこで,安直ですが,
{(図1の配分) + (図2の配分) + (図3の配分) × 2} / 4
で得られる折衷案が,図4のアセットアロケーションです.
図4 株式を主体として全資産に配分した例
全世界株式やバランスファンドは次善の策として有効
世界の株式に分散投資するのであれば,全世界の株式を対象としたインデックスファンド1本だけに投資する方法があります.また,債券やREITを加えるのであれば,各種のインデックスバランスファンドもあります.VARB法でこれらのファンドは有効でしょうか?
私,縞縞猫の意見として,VARB法で高リスク資産を1本のファンドにまとめて投資することの是非は,以下のとおりです.
- パフォーマンスは個別ファンドの組合せに劣る
- 少ない手間でVARB法の効果が得られる
- バランスファンドでは国内債券の扱いに注意
パフォーマンスは個別ファンドの組合せに劣る
VARB法で得られる,相場の変動に起因する上乗せリターンは,その要因別に
(A) 高リスク資産全体のバリュー経路からの変動
(B) 高リスク資産内でのファンド間の変動の違い
の2つの成分に分けることができます.複数の資産クラスを1つのファンドにまとめて投資した場合,(A) の成分は得られますが,(B) の成分は得られません.したがって,VARB法での上乗せリターンは得られるものの,個別ファンドを組み合わせた場合との比較では,パフォーマンスは劣ると考えられます.
例えば,すべての株式クラスの値動きが全く同じ比率で変動した場合は,上乗せリターンは (A) だけとなり,個別ファンドの組合せでも全世界株式ファンド1本でも,全く同じリターンが得られます.
一方で,国内株式,先進国株式,新興国株式がすべて異なる値動きでありながら,全世界株式では相殺してバリュー経路どおりの値上がりとなった場合,個別ファンドを組み合わせた場合は (B) のリターンが得られますが,全世界株式ファンド1本では上乗せリターンは全く得られません.
実際にどの程度のリターンの差があるのかについては,現時点ではわかりません.いすれ検証して,ご報告したいと考えています.
少ない手間でVARB法の効果が得られる
資産の管理,特にリバランス時の処理は,対象とするファンドの数が増えれば増えるほど,手間がかかります.リバランスの計算自体は,最初にExcelのフォームを作っておけば,毎回の計算はほぼ一発でできます.しかしながら,Excelフォームへの各ファンド評価額の入力や,計算結果をもとにしたファンドの売買発注に関しては,自動で行う仕組み作りは困難であり,ほとんどの人は手動でやらざるを得ないでしょう.そのため,高リスク資産のファンド数が1つと7つとでは,実際にかかる手間は大きく違ってきます.
いくらパフォーマンスが良いといっても,手間がかかることが原因でリバランスをやめてしまっては,結局VARB法をやる意味がありません.ですので,無理なくVARB法を続けるためであれば,パフォーマンスを多少犠牲にしてでもファンドを1本にまとめることは,有効であると考えています.
バランスファンドでは国内債券の扱いに注意
バランスファンドを高リスク資産に入れる場合,1点だけ注意が必要です.一般にバランスファンドには,国内債券クラスも含まれます.もし,低リスク資産を国内債券ファンドで運用すると,低リスク資産と高リスク資産の両方に同じ値動きの資産クラスを含むことになり,非効率になります.それを防ぐには,低リスク資産として預貯金を選択するのが良いでしょう.この場合,国内債券クラスは高リスク資産の一部として扱うことになりますが,それ自体は特に問題はないと考えています.
おわりに
VARB法のアセットアロケーションについて,例を示しながら考え方を解説しました.これを参考に,各投資家の皆さんに合った配分をお考えいただければと思います.
