私,縞縞猫が提案するバリュー平均リバランス法(VARB法)は,ほったらかし投資とバリュー平均リバランスとを組み合わせることで,バリュー平均法と同様のパフォーマンスを手軽に得る方法です.これまでに,具体例による説明と,25年間長期投資のバックテスト結果を示しました.
今回は,VARB法を詳細にわたって,説明したいと思います.なお,VARB法に関して初めてお読みいただく方は,上記の2つの記事を先にお読みいただくことをお勧めします.その方が,手法と効果の概観を手早く把握していただけると思います.
目次
前準備 - 説明のための言葉の定義
まず,VARB法の説明のために,資産クラスを2つに分類しておきます.
- 低リスク資産:
暴落(年10%を超える下落)の可能性がゼロもしくは非常に小さい資産クラス.国内債券クラスのほか,預貯金など元金保証の無リスク資産も含みます. - 高リスク資産:
上記の低リスク資産を除く,すべてのリスク資産クラス.株式,REIT,外国債券の各種クラスがここに入ります.
「新興国株式や先進国REITが高リスクなのはわかるが,先進国債券が高リスクってどーなの?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが,あくまで2つのカテゴリーを区別するためだけの便宜的な名称と考えてください.
また,「リバランス」に関しても,以下の使い分けをします.
- 定率リバランス:
インデックス投資における通常のリバランスのことです.アセットアロケーションを定めてインデックス投資を続けていると,アセットクラスごとに値動きが異なるため,時間経過とともに時価評価額の比率が当初定めたものからずれてきます.これでは,想定したリスク水準を維持できないため,アセットクラスごとに売買を行い,時価評価額を当初定めた比率に合わせます.ここではこれを「定率リバランス」と呼ぶことにします. - バリュー平均リバランス:
バリュー平均法の考え方による,VARB法のリバランスです.
投資資金の分け方
生活防衛資金を別途確保した上で,投資資金を以下の3つに分けて扱います.
VARB枠
VARB法による投資を行う枠です.低リスク資産と複数の高リスク資産との組み合わせで構成します.
他の投資枠
各個人の考え方や事情によっては,VARB法以外の投資法を並行して行うこともあるでしょう.それらの投資を行う枠です.例えば:
- 親や祖父母からの相続・贈与で,株式や不動産を持っている.
- ぜひとも応援したいアクティブ投信がある.
- 株主優待目的で,いくつかの銘柄の株を所持しておきたい.
- やっぱり米国の優良株も買いたい.
- 多少は FXや仮想通貨にも手を出して,スリルを味わいたい.
などなど.自己責任でお好みの投資をしてください.特に必要性を感じない場合は,この枠は無くても構いません.
リスク調整枠
リスク許容度は人それぞれですが,VARB枠と他の投資枠だけでは,一般にリスクが過大になりがちです.そのため,この枠を設定することにより,投資資金全体のリスクを調整します.すべてを低リスク資産(その中でも無リスク資産を推奨)で運用します.
VARB枠の構成と目標アセットアロケーション
VARB法を始めるにあたって,まず,目標となるアセットアロケーションを設定します.
低リスク資産と高リスク資産の比率
VARB法のメリットを十分活かすには,おおむね
低リスク資産:高リスク資産 = 20 : 80
がお勧めです.比率の変更は可能ですが,ここではとりあえず 20:80 固定として話を進めます.この比率を変えた場合の影響は,主に大暴落時に現れます.低リスク資産の比率を上げるほど,大暴落時に高リスク資産を多く買い付けることになります.それによって,相場が反転したときに大きなリターンが得られる反面,万一下落が続いた場合の損失も大きくなります.
低リスク資産の選択
低リスク資産は,国内債券クラス,もしくは預貯金のいずれか一方で,目標アセットアロケーションの20%とします.
私としては,国内債券クラスを推奨します.若干のリスクはありますが,高リスク資産の各資産クラスとの相関が小さく(どちらかといえば負の相関),リバランス効果を高めることが期待できるからです.ただ,今の超低金利の環境で国内債券インデックスファンドを買うのは抵抗がある,という方は,無リスクの預貯金等で構成してください.(ここで個人向け国債を使う場合は,注意が必要です.理由は後述します.)
高リスク資産の選択と比率
高リスク資産は,株式,REIT,外国債券の各資産クラスで,合計で目標アセットアロケーションの80%とします.この中をどう配分するか,ですが,ここは皆さんの考え方に合わせて,自由に設定してください.現在すでにインデックス投資を始めている方は,採用しているアセットアロケーション(における高リスク資産内の比率)をそのまま維持していただいても構いません.ちなみに,私のお勧めとしては,株式を主体として(中でも先進国株式の比率を高めにする),国内外REITと外国債券とを若干加える,というものですが,これにこだわる必要はありません.
一点だけ注意事項です.目標アセットアロケーションによって,VARB枠のリスクが決まります.しかし,リスクの調整にあたっては,投資資金全体の中での比率も考慮してください.たとえば,定年近くの方など,リスクをあまり多く取れない場合,VARB枠だけでリスクを下げようとすると,低リスク資産が20%と決まっているために,必然的に外国債券の比率を増やすしか方法がありません.外国債券を積極的に持ちたいとお考えの方は,それで良いのですが,外国債券は極力増やしたくない,という方は,VARB枠自体を小さくし,その分リスク調整枠を大きくとってください.そうすることで,VERB枠の中では株式(+REIT)主体の運用ができます.
なお,リスクの算定は,通常のインデックス投資とは異なる部分があります.これについては,別途まとめます.
金融商品の選択
VARB法の運用では,リバランスが命です.そのため,金融商品の選択で重要な条件は,
リバランス時に任意の金額を,すみやかに手間をかけずに解約できること
です.このことから,選択肢としてまずお勧めできるのは,
- 各資産クラスのインデックス投資信託
- 低リスク資産として預貯金を選択する場合は,普通預金など
となります.
低リスク資産の商品選択
低リスク資産では,リバランスの際に全額売却という可能性もあり得ます.定期預金や個人向け国債は,使えないわけではないのですが,制約や手間の点で,積極的にはお勧めできません.使う場合は,解約時の制約条件(可能時期,売買単位,ペナルティ,手続きの手間など)を調べ,リバランス時に面倒が起きないことを事前に確認してください.
高リスク資産のファンド選択
高リスク資産では,リバランス時の全額売却はありません.そのため,資産の一部(リバランスでの売却に支障がない範囲)をETFで運用し,残りをインデックス投資信託とした方が,コストが低く抑えられる可能性があります.ただし,その分管理の手間が増えます.インデックス投資信託の低コスト化が進んできたこともあり,手間の増加に見合うだけのコスト削減効果が得られるのは,かなりの高額資産をVARB法で運用される方に限られると思います.
具体的なファンドの選択については,通常のインデックス投資と同じです.信託報酬,実質コスト,資産総額などを参考に,各自お好きなものを選んでください.これらの情報は,数多くのインデックス投資ブログにおいて,紹介や比較検討がなされています.
日々の運用
日々の運用は,通常のインデックス投資と同じで,基本はほったらかしです.
- 資産積立期は,毎月定額自動積立.
- 資産維持期は,全く何もしない.
- 資産取崩期は,毎月定額自動売却.
このほか,臨時に得た資金をスポットで投入する,臨時に必要になった資金を取り崩す,なども,必要に応じていつでも自由に行っていただいて結構です.
このとき,一つだけ重要な原則として,
資金の投入,取崩しのいずれ局面においても,目標アセットアロケーションの比率で売買を行う
ということを守ってください.「今は新興国株式が下がってお買い得だから多めに買う」などといった恣意的な理由で比率を変更することは,VARB法の趣旨に反します.
なお,投資を長く続けていると,様々な理由で目標アセットアロケーション自体を変更したくなることがあります.この場合の扱いは,別の機会にまとめたいと思います.
バリュー平均リバランス
いよいよ年1回のリバランスです.ここがVARB法の肝にあたる部分です.リバランスの時期は,予め各個人の状況に合わせて設定してください.仕事が毎年忙しくなる月や家族の恒例行事(帰省や旅行など)がある方は,その時期を外して設定しておくと良いでしょう.
バリュー経路の算出
まず,次の式を使って,今回のバリュー経路を計算します.
(今回のバリュー経路)
= min ((前回のバリュー経路) × (1 + (期待リターン)
+ (追加投資額) × (1 + (期待リターン)/2),
(資産評価額の合計) × (100/80))
追加投資額は,前回リバランスの後に投入した額(積立額とスポット購入額)の合計です.取り崩した金額は,負の値として計算します.厳密な期待リターンを求めるには,各回の時期と売買額を考慮に入れて積算する必要がありますが,ここでは,期間のちょうど中間(半年前)にすべての売買を行ったと仮定します.そうすることで,上記に示す簡易な式で計算できます.前回リバランスからの入出金がない場合は,もちろん0です.
悩ましいのは期待リターンです.VARB法のパフォーマンスは,期待リターンを正確に予測できるかに大きく依存します.しかし,正確な予測なんて無理です.とはいえ,何か値を決めないと,リバランス計算ができません.私は,バックテストの結果や現在の世界経済の状況から鑑みて,株式主体の構成であれば 6 % に設定しておくのが妥当と考えています.通常の計算で得られる期待リターンより若干高めですが,その理由はVARB法によるリターン上乗せ期待分を含んでいるためです.
暴落などで資産評価額が非常に下がった場合は,前回のバリュー経路と追加投資額から計算したバリュー経路では,資金が不足してリバランスできなくなります.そのような場合に,資産評価額の合計から求めた値が選択されます.
リバランス方法
まず,各資産クラスの売買額を決めます.高リスク資産は,それぞれのアセットクラスの売買額として,
(時価評価額) - (バリュー経路) × (目標アセット比率)
を計算します.この値が正の場合は売却額,負の場合は購入額となります.次に,高リスク資産のこれらの売買額をすべて加算・相殺します.トータルで黒字(売却過剰)となる場合は,同額分の低リスク資産を購入します.トータルで赤字(購入過剰)となる場合は,同額分の低リスク資産を売却します.結果的に,VARB枠内で差引0となりますので,他から資金を調達する必要はありません.
なお,課税口座においては,売却益に対して税金が差し引かれます.手元に残る売却額が減るため,税額分を購入額から差し引く必要があります.売却を先に行い,受取額が確定してから金額を調整し購入を行うのが良いでしょう.
計算の具体例は,下記の記事を参照してください.
非課税口座の利用
各種NISAや確定拠出型年金(DC, iDeCo)などの非課税口座を利用すれば,パフォーマンスのさらなる向上が可能です.ただ,非課税口座には様々な制約があり,どう使うのが最適であるかは,私自身まだ十分に考察していません.わかった時点で,順次,ご報告したいと考えています.
おわりに
詳細説明と言いながら,すべてを書くと煩雑になるため,省略した部分が多々あります.次回以降,アセットアロケーションの例やリスクの算定法など,順次説明していくとともに,様々な条件でのバックテスト,それを踏まえた改良案など,紹介する予定です.
