VARB法のバックテスト ― 年率リターンが0.86ptも向上!

前回提案したバリュー平均リバランス法(VARB法)は,ほったらかし投資とバリュー平均リバランスとを組み合わせることで,バリュー平均法と同様のパフォーマンスを手軽に得る方法です.

新しいオリジナル投資法「バリュー平均リバランス法(VARB法)」を提案します.年1回のリバランス以外はほったらかしで,リターン向上が期待できます.

これがどのくらい効果的か,今回はバックテスト(過去の値動きを用いた検証)の結果の一部をご紹介します.

投資条件

ここでは,25年の長期間にわたり,一括投資,積み立て,取り崩しを行った場合の,それぞれの結果を示します.インデックス投資家の中には,途中売却で課税されることによるパフォーマンス低下を気にされる方が,多数いらっしゃると思います.そのため,ここでは投資の全額を課税口座で運用し,税引後の金額でパフォーマンスを比較することとします.

条件は以下のとおりです.

投資期間

1991年末から2016年末までの25年間とします.

目標アセットアロケーション

あくまで一例ですが,前回の解説と同様に,以下の比率とします.

  • 低リスク資産
     国内債券クラス:  20%
  • 高リスク資産
     国内株式クラス:  20%
     先進国株式クラス: 40%
     新興国株式クラス: 20%

積み立て

積み立てを行う場合は,終了月を除く毎月末に一定額を購入することとします.

取り崩し

取り崩しを行う場合は,開始月を除く毎月末に税込み一定額を売却することとします.残額が不足するアセットクラスが生じた場合,そのアセットクラスについては残額すべてを売却し,他のアセットクラスについては予定額を売却します(すなわちその月の売却総額は予定より少なくなる).

リバランス

リバランスを行う場合は,毎年末に行うものとします.まず比較対象として,通常のリバランス(ここでは定率リバランスと呼びます),すなわち対象となる資産全体を予め定めたアセット比率に戻すように売買する方法で,バックテストを行います.バリュー平均リバランスでは,期待リターンを 0%, 3%, 6%, 9%, 12% に設定し,それぞれについてバックテストを行います.期待リターンを低く設定した場合,取り崩し末期において高リスク資産が不足します.その場合は,1年間の取り崩し予定額が確保できるように,リバランス時にバリュー経路を修正します.

税金

税率は,期間全体にわたって現行の20.315% 分離課税を適用するものと仮定します.売却時に損失がある場合は,同一取崩月または同一リバランス時の売却分を損益通算して税額を計算し,トータルでマイナスであれば税額は0とします.損失分と前回以前あるいは次回以降の売却時の利益との損益通算は,ここでは考えません.

パフォーマンス

資産残高の推移は,各時点ですべて売却すると仮定したときの税引後の受取金額で示します.すなわち,時価評価額から含み益の20.315%(いわば「含み税」)を差し引いた金額の推移です.年率リターンは,前述の資産残高の年末ごとの推移から,幾何平均により求めます.また,その標準偏差を求め,年率リスクとしています.

資産維持期(一括投資)のバックテスト

開始時に一括で100万円投資し,積み立ても取崩しもせずにそのまま維持する場合の比較です.表1にパフォーマンス比較を,図1に残高推移を示します.ここでは,リバランス無し,定率リバランス,VARB法(期待リターン5種類)の結果を示していますが,定率リバランスとVARB法との比較に着目してください.これだけの長期間をリバランス無しで保持すると,アセット比率は大きく崩れるため,リバランス無しの例はあくまで参考情報と捉えてください.

表1 一括投資におけるパフォーマンス比較

図1 一括投資における資産残高推移の比較

VARB法では,期待リターンを6% に設定したときに,最高のパフォーマンスが得られています.25年後の税引後受取額は,定率リバランスの 310万円に対し,VARB法(6%)では 381万円となり,22.8%も増加しています.年率リターンに換算すると,同じく税引後で 4.635% → 5.499% と,0.86ポイントも向上しています.これは,課税前の年率リターンであれば1ポイント以上の差に相当します.株式売買などで短期間に大儲けを狙う方にとっては,リターンが1ポイント増えても誤差みたいなものと感じるでしょうが,信託報酬の0.01ポイントの違いにも敏感なインデックス投資家の皆さんなら,これがいかに大きな差であるか,ご理解いただけると思います.

リターンが向上したとしても,リスクも増えてしまっては,手放しで喜べません.そこで,表1にはリスクも示しています.また,図2にリスク-リターンを比較した図を示します.驚くべきことに,VARB法(6%)はこれだけリターンが増えているのに,リスクはむしろ減っています

図2 リスク-リターン の比較

VARB法では,高リスク資産はバリュー経路に従ったリバランスを行いますが,低リスク資産の比率は,リバランス時の全体の評価額に応じて大きく変動します.その推移を図3に示します.VARB法(6%)では,低リスク資産の比率は目標の20%をほぼ中心として,年によって上下に変動していることがわかります.特に顕著なのは,リーマンショックで大暴落が起こった2008年です.前年までは高リスク資産が好調であったために,リバランスにより低リスク資産比率を高めています.暴落のほぼ底にあたる2008年末のリバランスでは,50%以上を占める低リスク資産を全額売却し,全力で高リスク資産を買い付けています.このことが,その後のリターン向上につながっています.

図3 一括投資における低リスク資産推移

期待リターン6% というのは,このアセット比率でこの期間において最適に近いものです.しかし,期待リターンの最適値を事前に精度良く予測することは困難です.この予測がはずれた場合には,当然ながらパフォーマンスは低下します.期待リターン3% および 0% では,時価評価額の上昇にバリュー経路がついていけず,高リスク資産の売却が続いて,結果的に機会逸失となっています.このことは,低リスク資産比率の推移(図3)を見れば一目瞭然です.一方,期待リターン 9% および12% では,バリュー経路の上昇が過大であり,低リスク資産の比率が少なめになります.低リスク資産を全額売却する回数も増えるため,パフォーマンスは下がります.

資産積立期のバックテスト

毎月5万円を25年間積み立てた場合の比較です.表2にパフォーマンス比較を,図4に残高推移を示します.

ここでも,VARB法(6%)が最良のパフォーマンスを示しています.定率リバランスと比較して,最終受取額が約2880万円 → 3110万円(13.9%増)となっています.

表2 資産積立期におけるパフォーマンス比較

図4 資産積立期における資産残高推移の比較

資産取崩期のバックテスト

1800万円を元手に,毎月10万円ずつ取り崩した場合の比較です.表3にパフォーマンス比較を,図5に残高推移を, それぞれ示します.表3の「取崩受取額」とは,月々の税引後受取額を累積したものです.取り崩し時の税金は,リバランス方法によって違ってきますし,取り崩し末期には金額が不足することも出てきます.そのため,これらによる差を確認する意味で,取崩受取額を示しています.「受取総額」は, 取崩受取額と最終受取額とを足したものです.なお,リバランス無しの場合,早い時期にアセット間のバランスが崩れ,指定比率での取崩しができなくなるため,比較から省いてあります.

表3 資産取崩期におけるパフォーマンス比較

図5 資産取崩期における資産残高推移の比較

この条件で,もし投資せずに預貯金で運用すると,15年ほどの取り崩しで資産は底をつくことになりますが,リスクを取って投資することで,取り崩し期間を25年程度まで伸ばすことができます.定率リバランスでは,25年間の取り崩しでほぼ底をついていますが,VARB法(6%)では,400万円ほど残っていますので,このまま続ければあと3年くらいは取り崩しができそうです.

図5を見ると,期待リターン3%および0%の場合に,途中から相場の影響をほとんど受けなくなっています.これは,期待リターンの見積りが過小である上に,取り崩しによる減算の影響を受け,バリュー経路が小さくなりすぎるためです.図6に低リスク資産比率の推移を示します.これを見れば明らかで,取り崩し期間の終盤になると低リスク資産が100%近くに張り付いており,高リスク資産のリターンの恩恵を受けていません.このことから,資産取崩期は期待リターンをより慎重に設定する必要があるといえます.

図6 資産取崩期における低リスク資産推移

まとめ

25年間の長期投資を例として,VARB法のバックテストの結果を紹介しました.高リスク資産を国内・先進国・新興国の株式クラスで構成し,期待リターンを6% に設定した場合,税引後の年率リターンは,通常の定率リバランスと比較して0.86pt もの向上となり,リスクも軽減されることがわかりました.また,資産積立期,資産維持期,資産取崩期のいずれにおいても,月々ほったらかし + 年1回リバランス の運用で十分なパフォーマンス向上が得られることが,確認できました.

今回ご紹介したのは,私が試みたバックテストの結果のごく一部です.当然のことながら,パフォーマンスは投資期間やアセットアロケーションに大きく依存します.条件を変えた場合のバックテストの結果は,今後順次まとめていきたいと考えています.ただ,株式主体の長期運用で期待リターン6% とすれば,多くの場合,定率リバランスに比べて年率リターン(税引後)は0.4~0.9pt程度の向上となるようです.しかも年率リスクは同等以下となります.

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