バリュー平均法の実践は難しい ― 投資額変動に伴う困難と煩雑さ

バリュー平均法は,相場の変動を利用することで,多くの場合ドルコスト平均法よりリターンを向上させることができます.

バリュー平均法は,あらかじめ想定した資産額の成長に合わせて積み立てや売却を行う投資法です.相場の変動を利用して機械的に売買を行い,リターンを増やす妙案といえます.

ただし,一般投資家が実践することは難しい,というのが多くのブロガーの評価のようです.何が困難であるのか,今回はその課題をまとめてみます.

バリュー平均法の課題

バリュー平均法の課題として,以下が挙げられます.

  1. 積立額が一定せず,家計が相場に振り回される
  2. 相場が大きく下落すると,バリュー経路への追従ができない
  3. 相場が下降し続けると,損失が拡大する
  4. 相場が上昇し続けると,待機資金が増大し投資機会を逸する
  5. 相場上昇で売却すると,課税口座では税金の支払いが生じる
  6. バリュー経路や待機資金の扱いなど,適切な設定が困難
  7. 四半期ごとの買い付け・売却に手間がかかる
  8. 複数の資産クラスに投資した場合の議論が不十分
  9. リスクに関する議論がない
  10. 積み立てた後の,資産の維持や出口戦略に関する議論がない

以下,それぞれについて説明します.

1. 投資額が一定せず,家計が相場に振り回される

バリュー平均法では,積立額はファンドの価格に依存するため毎回変動します.これは,家計にかなり余裕がある人や,まだ投資していない余裕資金を多く持つ人,不要不急の趣味などに相当の金額を使っている人,などでない限り,対処は難しいと思います.

特に,扶養家族をもつサラリーマンの中には,月々の限られた給料の中で,何とかやりくりして生活している人も少なくないでしょう.そんな中で貯蓄や投資をしようと思ったら,まずは家計を見直して無駄を減らし節約を行って,月々一定額の余剰金を捻出する必要があります.それすら大変なのに,相場の状況次第で積立額を突然増額しろと言われても,困ってしまいます.

2. 相場が大きく下落すると,バリュー経路への追従ができない

資産総額が大きくなってから暴落が起こると,巨大な額を投入する必要が生じます.そうなると,毎回の積立額の変化にある程度追従できる,という人でも,さすがにお手上げです.この場合,値上がり時に蓄えた待機資金が十分あるか,もしくは,あらかじめ相当額の待機資金をプールしておけば,ある程度の暴落には耐えられますが,保証はできません.一方で,暴落に備えて多額の待機資金を持つことは,投資機会の逸失でもあります.

3. 相場が下降し続けると,損失が拡大する

相場下落時にバリュー経路に追従できたとしても,下落が長期間継続すると,余分に買い増しした分だけ,損失を拡大することになります.相場が下がったときに買い増す行為は,すなわち「ナンピン買い」と同じです.株式投資の有名な格言の一つに,「下手なナンピン,すかんぴん」というのがありますが,まさしくその状況になるわけです.

4. 相場が上昇し続けると,待機資金が増大し投資機会を逸する

逆に相場上昇が長期間継続した場合,積立時の買い付け額は減少し,あるいは逆に売却することも出てきます.それによって,平均購入単価を低く抑えることができる半面,投資可能な資金を現金(預貯金)のまま持ちつづけて効果的に投入できず,大きな機会逸失となってしまいます.

5. 相場上昇で売却すると,課税口座では税金の支払いが生じる

売却が生じるのは,一般に相場が上昇して利益が出ているケースがほとんどです.そうすると,税金の支払いが生じるため,将来の利益が目減りする恐れがあります.この税金は将来いずれ支払うべきものですが,これを今払うか先延ばしするかの違いで,そこから得られるリターン分の差がつくからです.

バイ&ホールドやドルコスト平均法においても,アセットアロケーションが当初設定から乖離した場合にリバランスを行うと,同様の問題が生じます.しかし,バリュー平均法では,通常のリバランスと比べて売却金額がかなり大きくなるため,税金の影響も大きくなります.

6. バリュー経路や待機資金の扱いなど,適切な設定が困難

バリュー平均法のメリットを活かしてパフォーマンスを上げるには,バリュー経路の設定,特に期待リターンを適切に見積もることが極めて重要です.しかし,将来の期待リターンを的確に予測することは困難です.実際のリターンに比べ,当初設定のリターンが低すぎると,投資額が増えず機会逸失となります.逆に高すぎると,資金投入が過大になり,バリュー経路に追従できなくなります.また,当初の待機資金の準備額についても,適切な値を求めることは困難です.

7. 四半期ごとの買い付け・売却に手間がかかる

ドルコスト平均法では,月々一定額の積立を行いますが,これは多くのネット証券において,最初に一度設定するだけであとは自動的に積立が行われます.リバランスを行うとしても,1年に1回あるいはせいぜい半年に1回で十分です.

これに対してバリュー平均法では,3ヶ月ごとに積立額を計算し手動で売買を行う必要があります.アクティブ投資に比べれば大した手間ではありませんが,仕事が忙しい人などは,3ヶ月ごとに忘れずに実行するというだけでも手間に感じるかもしれません.

8. 複数の資産クラスに投資した場合の議論が不十分

インデックス投資では,複数の資産クラスに分散投資することが一般的です.株式,債券,REITのそれぞれについて,国内,先進国,新興国に分け,どの資産クラスにどれだけの割合で投資するのか(アセットアロケーション)をあらかじめ決めます.そして,資産クラスごとにファンドを決めて,投資を実行するのです.

ところが,バリュー平均法を紹介する文献や記事の大半は,単一のファンドを積み立てることが前提です.複数の資産クラスの各ファンドにバリュー平均法を適用することも,原理的にはもちろん可能ですが,その際のバリューパスや待機資金の設定に関して,ほとんど議論がありません.

9. リスクに関する議論がない

前述の,複数資産クラスに分散投資する最大の理由は,リスクを抑えるためです.インデックス投資においては,アセットアロケーションとリスクとの関係が理論的に確立されています.アセットアロケーションから,年率の期待リターンとリスクの見積もりが可能ですので,暴落時に最大何%くらいの損失になるかを,大雑把に知ることができます.また,資産クラスごとに値動きが異なるため,時価総額の比率は徐々に変化します.これを当初予定のアセットアロケーションに戻すための「リバランス」も,リスク水準維持のために推奨されています.

ところが,バリュー平均法においては,こうしたリスクに関する議論をほとんど見かけません.リスクの見積りや制御ができないと,バリュー平均法を安心して使うことはできません.

10. 積み立てた後の,資産の維持や出口戦略に関する議論がない

バリュー平均法は,資金を積み立てていく前提での方法論です.しかし,資産運用の過程では,新たな積立を行わず今ある資産を維持し運用するだけの時期もありえます.また,定年後は一般に資産を取り崩す過程となります.これらに対しても,バリュー平均法の考え方が使えそうですが,ほとんど議論がありません.

バリュー平均法のバックテストと改良案

バリュー平均法については,すでに様々なバックテストやシミュレーションがなされており,改良案もいくつか提案されています.

例えば,岡本和久さんは,価格下落時の投入資金の増大への対処として,キャップ付きバリュー平均法を提案されています.

第4回 バリュー平均法の問題点と対策 【岡本和久の新時代の積立投資術「バリュー平均法」入門】

また,森村ヒロさんのブログでは,特に上で挙げた項目  2, 4, 6 を解決するために,毎回の投入資金の決定や待機資金の扱いに関して,いろんな改良案の試行錯誤が示されています.

「バリュー平均法」一覧
ひと手間くわえた積立投資で資産形成

示唆に富む内容ですが,既存のバリュー平均法をもとに新たな規則を加えるという方策では,一般のインデックス投資家が手軽に実践できるレベルにまで改良することは難しいようです.

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