今回は,ドルコスト平均法の課題を補う方法の一つとして,バリュー平均法をご紹介します.
値上がりしたときに売る方法
インデックス投資+ドルコスト平均法 による長期投資においては,一旦購入した資産は,それを取り崩す必要が出るまで保有するのが基本です.たとえ値上がりしても,利益確保のために投資の途中で「売る」ことは,基本的に想定していません.例外的に途中で売却するケースもありますが,おおむね以下に限られると思います.
- リスク水準を維持するための「リバランス」での一部売却
- アセットアロケーションの修正
- より低コストの同種ファンドへの乗り換え
- 税率引き上げ時の利益確定
実際には,投資を行っている間,相場はかなり変動します.通常のインデックス長期投資法は,この相場の変動をあえて無視することで,期待リターンを信じて堅実に資産を増やそうとするものです.
もし,高値の時点で売り,安値の時点で買うことができれば,リターンは大きくなります.とはいえ,相場を読んでタイミングを計るのでは,そのための情報収集に手間がかかります.何とかこれを「相場を読む」ことなく,機械的に実行する方法はないものかと,縞縞猫は考え,試行錯誤とシミュレーションを繰り返しました.
その過程で,資産の成長曲線を想定して,それに追従するように売買してはどうかと考えました.調べてみると,これとかなり近い考え方がすでに提案されていました.それがバリュー平均法です.
バリュー平均法は,米国のMichael E. Edelson博士が1988年に最初に提案したものだそうです.
Michael E. Edleson,
Value Averaging: The Safe and Easy Strategy for Higher Investment Returns,
Wiley, 2006, ISBN: 978-0470049778
日本では,岡本和久さんが著書のほか各媒体で,バリュー平均法を積極的に紹介されています.ネットで読める記事としては,たとえば以下にまとまっています.
バリュー平均法とは
バリュー平均法の考え方は,
目標とする資産評価額(バリュー経路)を設定し,毎回の積立時に,総額がバリュー経路と一致するように不足分を投資する.バリュー経路を超過していた場合は,超過分を売却する.
というものです.
表1に例を示します.ここでは,1月から毎月積み立てを行うものとします.目標評価額として,月々2万円ずつ増えていくバリュー経路を設定します.相場変動がなければ,月々2万円ずつ積み立てればバリュー経路を満足しますが,現実には評価額は毎月上下するので,それに応じて積立額も変わります.なお,ここでの基準価格は1口あたりの価格とします.
- 1月: 開始時,評価額は 0円なので,バリュー経路に不足する2万円分を購入.
- 2月: 相場下落で評価額 1.6万円となった.バリュー経路に不足する2.4万円分を購入.
- 3月: 相場上昇で評価額 5万円となった.バリュー経路に不足する1万円分を購入.
- 4月: 相場下落で評価額 4.8万円となった.バリュー経路に不足する3.2万円分を購入.
- 5月: 相場上昇で評価額 12.5万円となった.バリュー経路を超過する2.5万円分を売却.
- 6月: 相場下落で評価額 8万円となった.バリュー経路に不足する4万円分を購入.
月 | 基準価格 | 投資前評価額 | バリュー経路 | 購入額 | 購入口数 | 保有口数 | 投資総額 |
1月 | 10,000 | 0 | 20,000 | 20,000 | 2.0 | 2.0 | 20,000 |
2月 | 8,000 | 16,000 | 40,000 | 24,000 | 3.0 | 5.0 | 44,000 |
3月 | 10,000 | 50,000 | 60,000 | 10,000 | 1.0 | 6.0 | 54,000 |
4月 | 8,000 | 48,000 | 80,000 | 32,000 | 4.0 | 10.0 | 86,000 |
5月 | 12,500 | 125,000 | 100,000 | -25,000 | -2.0 | 8.0 | 61,000 |
6月 | 10,000 | 80,000 | 120,000 | 40,000 | 4.0 | 12.0 | 101,000 |
このように,設定としては月々2万円の追加ですが,金融商品の騰落に応じて月々の購入額を増減させる(場合によっては売却する)ことで,バリュー経路を維持します.このとき,価格が上昇し割高となった場合は購入額が減少(もしくは売却)し,価格が下落し割安となった場合は購入額が増加します.その結果,1口あたりの平均購入額を低く抑えることができます.
ドルコスト平均法との比較
表1と同じ値動きのときに,ドルコスト平均法で毎月2万円ずつ積み立てた結果を表2に示します.この場合,1口あたり平均購入額は,120,000 / 12.6 = 9,524円 となります.これに対して,表1のバリュー平均法では,101,000 / 12.0 = 8,417円 となり,ドルコスト平均法よりも安く購入していることがわかります.
月 | 基準価格 | 投資前評価額 | 購入額 | 購入口数 | 保有口数 | 資産総額 | 投資総額 |
1月 | 10,000 | 0 | 20,000 | 2.0 | 2.0 | 20,000 | 20,000 |
2月 | 8,000 | 16,000 | 20,000 | 2.5 | 4.5 | 36,000 | 40,000 |
3月 | 10,000 | 45,000 | 20,000 | 2.0 | 6.5 | 65,000 | 60,000 |
4月 | 8,000 | 52,000 | 20,000 | 2.5 | 9.0 | 72,000 | 80,000 |
5月 | 12,500 | 112,500 | 20,000 | 1.6 | 10.6 | 132,500 | 100,000 |
6月 | 10,000 | 106,000 | 20,000 | 2.0 | 12.6 | 126,000 | 120,000 |
バリュー平均法の実践
バリュー平均法の実践にあたっては,いくつかの留意点があります.
積立の頻度
毎月積み立てるよりも,3ヶ月毎に積み立てる方が,よりパフォーマンスが良くなるそうです.
待機資金の設定
売却額がある場合,それを待機資金として現金(預貯金等)でプールしておきます.この待機資金は,購入額がバリュー経路増額分より大きくなるときに使います.また,投資開始時点で,あるまとまった額の待機資金をプールしておく方法も提案されています.それによって,月々の購入額が大きくなりすぎることが,ある程度防げます.
バリュー経路の設定
表1の例では,月々おおむね2万円前後を積み立てるという設定で,バリュー経路を単純に2万円ずつ増加させています.しかし,長期的に見ると,積立額に対するリターンが得られる場合が多いです.そこで,金融商品の期待リターン(たとえば年5%)を上乗せしてバリュー経路を計算することもできます.実際,長期にわたって良好なパフォーマンスを保つには,適切な期待リターンでバリュー経路を設定しておくことが重要のようです.
バリュー平均法の評価
バリュー平均法は,これまでにも多くの方々がシミュレーションやバックテストを行っておられます.その結果,多くの相場変動パターンに対して,ドルコスト平均法よりもリターンが向上することが示されています.これは,相場が上がったときは少ししか買わない,または,資産の一部を売る(利益確定売り),下がったときは余分に買う(ナンピン買い)ということを,自然と実行しているためです.まさに,相場変動からリターンを得ているわけです.
もちろん,バリュー平均法は万能ではなく,特に以下の場面ではパフォーマンスは悪化します.
- 相場の上昇傾向が何年も続く
相場上昇に伴って毎回の投資額が減るため,平均購入額は低く抑えられるものの,待機資金プールばかりが膨らみ,投資機会を逸することになる.そのため,ドルコスト平均法の方が,より多額の利益が得られる. - 相場の下落傾向が何年も続く
相場下落に伴って毎回の投資額が膨らみ,バリューパスへの追従ができなくなる.追従できたとしても,損失がますます大きくなる.
それ以外の,相場が上下に変動する場合であれば,おおむねドルコスト平均法よりもパフォーマンスは良くなるようです.
ただし,一般投資家にとってバリュー平均法の実践は難しい,というのが多くのブロガーの評価のようです.なぜ難しいのかについて,次回詳しく考察します.
