資産評価額の落とし穴 ― 「含み税」をお忘れなく

最近,NYダウやS&P500が最高値を更新するなど,株式相場が好調です.こういうときは,持っている株や投資信託の含み益がどんどん増えますね.証券口座の資産評価額が過去最高となり,ニンマリしている方も多いと思います.

しかし,この資産評価額,額面どおりに受け取ってはいけません.
「そりゃ,あくまで時価であって,この先もし株価が下がれば含み益どころか含み損を抱えるかもしれないからでしょ?」
はい.それもあります.評価額は「今の株価や基準価額で売却したと仮定したときの金額」ですから,今後の株価変動で増えるか減るかわかりません.
でも,注意すべき点はそれだけではありません.

「含み益」の中には「含み税」が隠れている

そうです.資産を売却して利益が出ると,基本,課税されます.「譲渡益税」と呼ばれるものです.これは,株式や投資信託の売買経験のある方なら常識だと思いますが,知っている方でも資産評価額を見るときには頭から抜け落ちていることが多いのではないでしょうか.

証券口座で自分の資産状況を見ると,現時点での資産評価額および含み損益額が表示されます.損益額がプラスなら「含み益」,マイナスなら「含み損」です.課税口座においては,「含み益」の中に20.315%の税金分が隠れているのです.この隠れた税金分のことを,ここでは「含み税」と呼ぶことにします.「含み税」は将来売却するときに納税すべき金額なので,資産評価額から減額しないと,正しい資産の把握はできません.

「含み税」の簡易計算法

以下の例で考えてみましょう.

表1.資産状況
  資産評価額 含み損益
全口座 20,100,000 +8,100,000
 特定口座(課税) 13,200,000 +6,000,000
 NISA口座(非課税) 6,900,000 +2,100,000

元金1,200万円に約67%の利益が乗って,資産評価額はついに2,000万円超え! という嬉しい場面です.このうち,非課税のNISA口座の含み益210万円は全額評価して良いのですが,課税される特定口座の含み益600万円は税込み金額であることに注意する必要があります.

含み税ならびに実質評価額は,以下の式で簡易計算できます.

  • (含み税)=(課税口座の含み益)× 0.2
  • (実質評価額)=(資産評価額)-(含み税)

細かく言えば,税率は0.2ではなく0.20315 が正しいですが,そもそも資産の時価評価額が1日に0.3%以上変動することも日常茶飯事ですから,そこまで厳密に計算する必要はないと思います.

表1の例だと,

  • (含み税)= 6,000,000 × 0.2 = 1,200,000〔円〕
  • (実質評価額)= 20,100,000 - 1,200,000 = 18,900,000〔円〕

というわけで,実は2,000万円の大台にはまだ100万円以上届いていない状況なのです.

投資を始めてしばらくは,含み益も大きくないので,含み税の金額はほとんど問題にならないでしょう.一方で,バイ&ホールドの長期投資を長年続けている方だと,含み税はバカにならない金額に膨らんでいるかもしれません.

「含み損」の場合は?

株価が下がり含み損が生じた場合,含み税はどう考えればいいでしょうか? トータルで含み損になることもありますし,個々の株やファンドで見ると含み益と含み損の両方が存在することも多々あります.

含み損の場合は,仮に売却すれば損失が出るわけですから税金はかかりません.それどころか,同一の特定口座内に売却して利益が出たものが他にあれば,損益通算して税額が計算され,売却益にかかる税金がその分減額されます.異なる口座でも確定申告すれば損益通算できますし,損失分は最大3年間繰り越しができます.つまり,「含み損」は「マイナスの含み税」を含んでいると考えることもできます.ただし,売却時の状況によっては,損益通算ができないこともあるので,必ず税金が戻ってくるという保証はありません.

あくまで簡易評価ということに割り切れば,含み税は以下のように考えるのが妥当かと思います.

 課税口座の損益のトータルが

  • プラス(含み益)の場合:
     その20%を含み税と考える
  • マイナス(含み損)の場合:
     含み税は0と考える

「含み税」の持つパワー: 税の繰り延べ効果

含み益があってもその時点では課税されず,売却して利益が確定した時点で課税されます.そこで資産形成期において,分配金の出ない投資信託と,分配金の出る投資信託で分配金を再投資するのとを比較した場合,「分配金は一部売却するのと同様に税金を取られるから損」という話が出てきます.この話は嘘ではないのですが,正確な説明ではありません.

まず,売らずに保持するからといって,将来的に「含み税」が免除あるいは減額されるわけではなく,単に先送りされるだけです.基本的にいつか売った時点で税金として取られるのです.減額されるケースもないわけではないのですが,

  • 基準価額が今より下落した場合
  • 売却時の年収(年金含む)が極めて少ない場合
    → 確定申告で税金が戻ってくる
  • 譲渡益税の税制が改訂され,一部またはすべての人にとって減税となった場合

など,どれも最初から積極的に狙うものではないと思います.ですから,税金そのものが減ると考えるのは間違いです.

ただし,すでに売却・納税した場合と異なり,含み税は売却するまでは「自分の資産の一部」ですから,基準価額が上がればその恩恵を受けることになります.長期投資であれば高い確率で値上がり益が期待できるため,売却せずに先送りした方が得をするケースが多いのです,これが,税の繰り延べ効果です.

例えば,前に示した例で,課税口座の全資産1,320万円分を対象として,

  1. 一旦すべて売却し,税金分を差し引いて同じものを買い直す.
  2. 売却せずにそのまま保持する.(含み益のまま)

の二つのケースを考えてみましょう.この時点で,資産状況は表2のようになります.

表2.二つのケースの資産状況:当初
ケース 資産評価額 含み損益 含み税 実質評価額
A 12,000,000 ±0 0 12,000,000
B 13,200,000 +6,000,000 1,200,000 12,000,000

仮にすべての銘柄の株価や基準価額が数年後に1.5倍になったとしましょう.すると,この時点での課税口座の資産状況は表3のようになります.

表3.二つのケースの資産状況:数年後
ケース 資産評価額 含み損益 含み税 実質評価額
A 18,000,000 +6,000,000 1,200,000 16,800,000
B 19,800,000 +12,600,000 2,520,000 17,280,000

Bの方は含み益が大きい分,含み税も大きいのですが,実質評価額で比較すると,Bの方が48万円多くなっています.なぜでしょう?

Aでは最初の売却時に税金120万円を支払い,この分は資産から消えます.一方,Bでは含み税(自分の資産)のままですから,120万円だったものが値上がりにより180万円となります.このうち,もとの含み税額である120万円は税金としていずれ取られますが,繰り延べたことによって新たに含み益として60万円増えているわけです.この60万円の20%(12万円)は新たな含み税となりますが,残りの48万円は実質評価額として増えることになります.このように,資産が今後値上がりするという前提であれば,含み益の乗った資産の売却・納税は先送りした方が得になるのです.

おわりに

資産評価額が増えて過去最高となり,特に「大台」に到達した時など,誰でも嬉しく感じるものですが,一呼吸おいて「含み税」を差し引いて考える方が,より妥当な資産把握ができます.